Monday, September 11, 2006

まじめなふり

ここ最近のPostの、あまりの馬鹿さ加減に、見てくれている人たちのため息が聞こえてきそうなので、たまには真面目に。

「あの」CollierとHoefflerが、紛争後の再発リスクに関する論文を出したそうだ。
http://www.csae.ox.ac.uk/workingpapers/pdfs/2006-12text.pdf

「あの」というのは、この二人は、世界銀行(これも嫌われる要因 笑)の人たちで、10年くらい前に「紛争は、根本的な不満や恨み(grievance)よりも、経済的な欲求(greed)の方が原因である」という、当時にしてみればかなりぶっ飛んだ説を発表して、結構な議論を巻き起こしたから。別に間違ってはいないんだろうけど、「歴史や感情よりも、ともかく金」と、ともすれば読めてしまう点が、反発された原因かなと思う。その分析方法も、歴史や地域特性、そして言説を無視して(というか、それらをデータ的に否定した!)いて、まさにGround-breakingだったわけだ。ちなみにその件に関しても、今年また論文を出したみたい(未読)。 興味があればどうぞ。
http://www.csae.ox.ac.uk/workingpapers/pdfs/2006-10text.pdf

個人的に、Collierのデータ分析はところどころ意外と恣意的だし、言説やらマスメディアといった側面をあまりにも無視しすぎていると思う。あと、統計の結果を正当化するために、個別の紛争ケースを歪曲して分析してみるのもどうかと思う。「ボスニアやコソボには、Ethnic DominanceはあったけどDiversityはなかった」とか(彼としては、多民族ということが紛争に結びつくわけではない、ということを言いたかったんだろうけど、それを言うにはケースが不適切)。びっくりしたぜよ。

そしてその理論に関しては、モチロン「欲求」を正当化するために「不満」を持ち出すこともあるわけだけど、逆に「(深層的な)不満」が「(政治経済的な)欲求」で爆発することもあるわけだし。ただ、これまで「言説」と「歴史」に頼りがちだった紛争学に、統計学的な手法を広めたのは認められるべきだけど。それに、ある程度極端じゃないと、注目もされないんだろうしね。んま、どうせこの極東学生が認めようが、世界銀行様には関係ないか(笑)。

しかし、戦争「前」のリスク評価をしていた彼らが、ここにきてようやく戦争「後」のリスク評価を始めたのはやはり興味深い。「戦後復興」というのがブームなことを実感させるなぁ。

で、ともかく上記の論文なんだけど、相変わらずデータ頼みで断言しまくりです。結論から言うと

・経済発展は平和を促進する(うわー、まさに世界銀行)
・民主主義は意外と危険 (Democratic Peace説を批判)
・社会的なStatusはあまり関係ない (エーーー!?)
・政府による軍事支出は少ない方が良いけど、国際社会からの軍事援助はよろしい

てなかんじですか、ハイ。これを20ページの論文で言い切っちゃうんだから、数学って偉大だわね。特に注目すべきは、二点目かと思う。Democratic Peace、というのは、民主主義国家内では紛争が起こりにくい、という説 (資本民主主義国家同士は戦争しない、というのも近いけどちょっと違うか)。結構まぁ有名な話で、ブッシュ大王がイラクに戦争しかけたのも、このアイデアに近いかも。んま、人に戦争しかけておいて「平和」も何もないけどね。それでともかく、論文の中でCollierは、このDemocratic Peaceという考えを(お決まりの)「統計学的に」否定しております。実は自分はこの点においてはCollierに賛成。例えばシンガポール(笑)なんて、多民族国家でありながら、その「非」民主的な政府がうまく国民をコントロールしてるんだよね。戦前のイラクも結構そんな感じ。だから、良く、「Governance」の指標の中に「どれだけDemocraticか」って項目があるんだけど、懐疑的に見ていたのです。ただまぁ、国際社会的に「紛争後の民主化」は相変わらず人気事項だから、またかなり反発があるかもね。

ちなみにココで注意すべきは、Collierや自分の評価軸(価値基準)が「紛争予防」「平和」であるのに対して、(上記のGovernance指標なんか特に)、「民主的」であること自体に価値がある、とする見方もあるってことだ。Democratic Peaceっていう考えは、そっちの方向から来たんじゃないかなーと邪推したりして。たまに紛争系の授業で「確かに紛争は良くないけれど、それを通じて社会がより良く矯正されることもあるから一概には言えない("Just War-大義の戦争"を支持するのってこういう人だろうね)」って意見の人がいるのよ。そう言う人とは、評価軸が違うから議論出来ないんだよね。極端な例、自分は多分ブッシュ大王とは議論が出来ない。

でもしかし、何で自分に今必要ない論文って、こう面白そうに見えるんだろう…。んま、ハリウッドの馬鹿ニュース読んで時間潰すよりは有用かなぁ…。